唐突に別れを突きつけられて、ぼくはまだちょっと混乱しているんだ。
別れる時って、楽しい思い出しか出てこないんだよね。なんでだろ。
4年前に初めて会ってすぐ君のアパートに転がり込んできてきた時はほんと楽しかった。
ここで開かれてる招待制のパーティー、あの頃はとても新しいアイディアだった。ご近所さんどうしでお話ししたり、お友達になってこそこそ内緒話したり、家族付き合いしてグチを聞いてもらったり、自分だけでひとりごと言ってたり、聞いてもらえる人を選べるのは斬新だった。素敵な話してる人には「This is Good」ってみんなに紹介していたね(実は密かに狙っていたんだけど結局駄目だったなあ)。みんなで春やイルミネーションを探しに行ったり、LOVEも探しに行ったこともあった。
パーティーにくる人はみんな素敵だった!みんな自分の世界を持っていた。写真がとってもうまい人、子供の話を楽しそうにしてる人、お酒が好きだったり、いつも美味しいお店を教えてくれる人、音楽大好きな人、いろんな人がいたけどみんなおしゃべりがうまいんだ。だからその分野に詳しくなくても話を聞くのがすごく楽しかったんだ。流行りのことや時事ネタは少なかったけど、それだけ流されない大人が多かったのかもね。ぼくはそんなパーティー仲間が好きだったんだ。
ここのパーティーを味わったら他では満足できなかったよ。この前とあるパーティーに行ったとき、内輪受けの話しかなくて、パーティーの業界話ばっかり。スポンサーがうるさいくらいに目の前にやってくるんだぜ。もうこんな所には行く気がしないよ。このアパートに帰るとやっぱりここが一番だと落ち着いたものさ。
今だから言うけどちょっとパーティー仲間のうちの誰かを悪く思ったこともあった。何でも自分の家を中心におしゃべりするのでちょっとムカッとしたなあ。まあ今となってはムカつく自分も微笑ましいもんだ。
最初は楽しかったパーティー、だんだん装飾が古臭くなってきてたのはわかってた。参加者からお金を取らずに広告で稼ごうと頑張ってたけどうまくいかなかったようだし。だから、装飾にここ最近の流行を取り入れられなくて、パーティーに参加する人数も一人減り二人減りしてたんだ。でもこのパーティーに来てる人がいる限りは一緒にいたいと思ってた。
君の同僚が新しいパーティーを始めて、そこでは参加費を取っていたのは知ってた。近くの歩行者天国でつぶやいてる人たちと仲良くやっていきたいと宣言してたのも見ていたよ。新しいパーティーに力を入れる一方で、ここは何も変わらないから、もしかしたらとうすうす感じていた。だから、ここのような居心地のいいパーティーを見つけようとあちこち出向いたこともあったんだ。けれど他にはないんだよ、こんなところ。参加者どうしが仲良くて、いつも何してるのか気になってるこんなところ、他にはないんだよ。
君からの別れの手紙はあっさりしたもの。
「お別れです。このアパートは今月いっぱいで引き払うから、引越ししてね」
しばらく場所だけは残してほしいと思ったけれど、そのへんはキッパリしてるね。やっぱり海外暮らしの経験があるからかな?わからないけど。
ぼくは君と別れても、パーティーに来てたみんなとはまだまだつながっていたいと思ってる。これまでみたいに一同に会せないと思うけど、他のパーティーで見かけたらあいさつしようと思ってる。見つめるだけよりあいさつを交わして、相手の素敵なところを「素敵」と口に出すこと。そうすれば楽しく過ごせるって、君から教えてもらった。「This is Good」ってね。
パーティーは終わった。
このアパートを出てどこに行くかはまだ決めてない。ここ以上のパーティーはあるかどうかわからないけどまたどこかに腰を落ち着けなきゃね。
いつかまた。
さよなら、Vox。